
医師が語る医療現場
患者様からの感謝の気持ちこそが最高のモチベーション
私たち横須賀共済病院の循環器内科が得意とする「不整脈の治療」についてですが、カテーテルアブレーションという治療法では、心臓に挿入したカテーテル(細い管)を使って心筋を焼灼します。当院ではその焼灼の仕方における新しいやり方を実践し、根治率を高めることに成功しました。この新しい治療法を世の中の方に知っていただくため、テレビや雑誌の取材を受ける機会も増えています。まだ不整脈(心房細動)という病気自体があまり知られていませんし、症状が目に見えないことが多く、早期発見・早期治療とならないことが残念でなりません。その状況をなんとかしたいという想いで、広報活動にも尽力しています。おかげ様で全国から治療を受けたいという方に来ていただけるようになり、医者冥利に尽きると感じています。私たちはその信頼に応えられるよう、日々努力を重ねています。
ただ、毎日のように病気を治してほしいという患者様の想いに応え続け、そして最先端の治療には非常にデリケートな技術が必要な手術もやらなければなりません。それをプレッシャーに感じる時もあります。しかし、どの医師も同じだと思いますが、そこから逃げてしまえば、今まで勉強し経験を積んできたのは何だったのかということになります。患者様の信頼に応えることこそ、医師にとって一番大事なことです。身に付けた力を発揮できるのは、いつだって今しかないと思い、日々の治療に取り組んでいます。
こうした日々を続けられる一番のモチベーションは、やはり「患者様からの感謝」です。病気が治ることによって人生が変わりますから、患者様にはこのうえない喜びだと思います。医師にとっても患者様が良くなって元気な顔を見られるのが第一であり、「よし、また頑張ろう」と奮起する糧になります。人にとって誰かの役に立つことは、ふだん意識していてもなかなか難しいものですが、それを通常の仕事の中でできる医師というのは、とても幸せな職業だと思います。
ハイレベルの手術を成功させるのは“チームワーク”
当院におけるカテーテルアブレーションの精度はどんどん高まっています。その最大の要因は、いいチームを作れたことに尽きると思います。もちろん、若い医師たちを全員同じことができるレベルにまで教育し、育てられたことも重要です。おかげで手術自体の数も増えました。しかし、医者だけがいても何もできません。医師のレベルの問題だけではなく、看護師や放射線技師、臨床工学技士などの周りのスタッフたちがいてこそ、ひとつの治療を行えるのです。「チーム医療」という言葉がありますが、まさにそれが重要だと思います。
いい医療を行うには、周りのスタッフの参加が必須であり、チームとして病気に立ち向かうことが大事です。皆の力を結集し、もし何かあった時には医者が責任をとる。そういう気持ちで治療に臨めば、周りはついてきてくれると信じています。新しい治療法の開発で個人的に評価をいただいたことには感謝していますが、私だけの功績ではありません。私がいつも強い気持ちで治療にむかえるのは、周りのスタッフが優秀なおかげです。最高のチームワークで、一人ひとりが能力以上のパフォーマンスを発揮できる。いいチームが作れたことこそ、私の強みであり、誇りなのです。
まずは協調性があり、がんばれる人材を求めています
新人のスタッフに求めるものは「協調性」が第一です。チームワークが重要であり、経験やスキルは関係ありません。医師にしろ、看護師にしろ、検査技師にしろ、新人であれば当然、経験はないわけです。経験、そして自信というものは、現場に入って日々をすごしていれば自然と身についていくものですから大丈夫です。
もうひとつ求めるならば「頑張れる」ことです。私は頭の良さや、そつなく何でもこなす器用さより、多少スピードが遅くても頑張っていることを評価します。病院というのはすべてが患者様のためですから、患者様のプラスになることであれば、ささいなことでもかまいません。いつもやさしく声をかけたり、笑顔で話しかけたりするのも立派な頑張りだと思います。また経験が長くなると、自分に対する甘えも出てきます。そこでどう自分を律しながら頑張り続けることができるか。そのためには、私を含めた周囲の人間がきちんと努力を評価し、「今日もお疲れさま」などのねぎらいの言葉をかけてあげることが重要だと考えています。
基本的な礼儀やマナーこそ、医師や看護師に必要な素養
医師にとって大事なのは、患者様の信頼に応えることであり、そのために重要なのがコミュニケーションです。インフォームドコンセントという言葉もありますが、患者様と同じ方向を向いて治療を実践し、その行きつく先について充分なコンセンサスを得られているかどうか。そこに見えている景色が同じかどうかをしっかり確認し合うことが大事です。そのためのコミュニケーション能力こそが、とくに今求められているのではないでしょうか。それは人間として培ってきた素養、社会人としての実力であると思います。
人としての礼儀やマナー、思いやりをもって患者様と接してこその医療であり、治療だけをやっていればいいわけではありません。そういう意味で、挨拶はとても大事です。自分への戒めもありますが、チームの若い人たちにも挨拶をするように言っています。あまりに基本的なことではありますが、そこが患者様とのコミュニケーションのスタートであり、職場においてはチームづくりのスタートでもあります。人に対する正しい接し方を身につけた方なら、この業界で活躍できると思います。